「睡眠」
それは人類を含む多くの動物にとって不可欠な行動でありながら、
現代の科学をもってしても、完全には解明されていない非常に興味深い現象です。
以前にアイデアの出し方について解説をしたこともございましたが、
今回は、デザイン・映像など「発想力」が命の業界に身を置く私たちが、
あらためて向き合いたいテーマ――「睡眠」についてお話しします。
現代日本は、慢性的な睡眠不足が深刻な社会課題となっています。
厚生労働省の調査によると、成人の約4割が「睡眠時間が足りていない」と感じており、
2021年に行われた調査では、OECD※加盟国30か国中、
日本の平均睡眠時間は7時間22分で最下位を記録している事は有名な話ですが、
2025年の3月には「NTT PARAVITA株式会社」が実施した調査レポートによって、
企業で就業している20代~60代の約80%が、
この平均時間”7時間22分”に満たない睡眠時間という事が明らかになっております。

平均睡眠時間は、6時間27分でした。
要因は人それぞれ――
仕事、育児、SNS、生活リズムの乱れ。
しかし共通しているのは、「眠る時間」を意識的に確保することが難しい社会構造になっているということです。
私の過去6か月における平均時間は6時間39分でした。
※OECD(経済協力開発機構)
世界中の経済や社会福祉の向上を目指す国際機関で、現在38か国が加盟している。
睡眠に関する有名な話といえば、2003年にアメリカ・ペンシルベニア大学・ワシントン大学で行われた研究でしょう。
「6時間未満の睡眠を2週間続けたグループは、2日間徹夜した人と同等の注意力・判断力の低下を示した」と報告されているものです。
この話以外にも、例えば朝6時に起きた人が9時から18時の定時の後、残業をして21時を過ぎると(起床から15時間後)
お酒を飲んでいなくても“酒気帯び運転”と同じ能力になってしまうという研究結果も発表されています。
また2011年には、スタンフォード大学医学部の研究では、バスケットボール部の選手達を対象に睡眠の研究を行ったところ、
「十分な睡眠を取った方が全体の平均シュート決定率が9%向上し、平均スプリントタイムも1秒速くなった」という結果も示されています。
これらの研究結果から、睡眠は単なる“休息”ではなく、
情報整理・記憶の定着・創造的な再構成に不可欠な“作業時間”の側面も持っていると言えるのではないでしょうか。
正直に言えば、我々もこの「寝不足社会」の例外ではありません。
納期のあるプロジェクト、クライアントの期待、クリエイティブの質。
すべてに全力で応えようとすれば、どうしても遅い帰宅になる事もあり、睡眠時間が削られることも現実としてあります。
ですが、それを当然とするだけでなく、どう向き合うかも我々のスタンスです。
・集中力の高い日中にディスカッションやアイデア出しを行う
・制作プロセスを可能な限り効率化し、“削らない働き方”を模索する
・一人ひとりが、自身のコンディションのバランスを取る裁量を持てるよう配慮する
これらはその一例ですが、このように少しでも「よりよいパフォーマンスを発揮し、よりよいアウトプットを出す」方法を模索しています。
人類は一生の内1/3を睡眠に費やすと言われていますが、そんな身近な存在であるにも関わらず、未だ解明されていない部分が多いです。
「眠っていたら仕事が進まない」という考え方が多くを占めていた時代もございましたが、
現代では、しっかりと眠った方が、結果として短時間で質の高いアイデアが生まれるという研究結果が増えてきています。
発想は、パソコンの前ではなく、枕の上で生まれることもある。
忙しい毎日を送る我々はどこか蔑ろにしてしまいがちな睡眠ですが、
この視点を持てるだけで、睡眠に対する価値観は変わってくるのではないでしょうか。
デザイン、映像、企画…我々の仕事の本質は「人の心を動かすアイデア」を生むこと。
その源泉である睡眠の質を上げることは、創造力を高めるための“投資”とも受け取れます。
働き方に課題はあっても、現場で試行錯誤しながら「削らない働き方」を模索すること。
それが、我々が長く高いクオリティを保つために必要な視点なのかもしれませんね。
今回のお話はこの辺で。またお会いしましょう。